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松山地方裁判所 昭和33年(行)1号 判決 1964年4月30日

原告 松山人形玩具株式会社

被告 松山税務署長

訴訟代理人 杉浦栄一 外五名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

(一)  原告が人形、玩具、花火の卸売および人形の製造を営む株式会社で、法人税青色申告の承認をうけたものであること、原告が二八年度および二九年度の法人税申告につき、その主張のような青色申告書を各所定期までに被告に提出したこと、右申告に対して、被告が昭和三一年一一月九日付で二八年度所得金額を九六万八、〇〇〇円、二九年度所得金額を六八万六、九〇〇円と決定して、その頃その旨原告に通知したこと、原告が右決定を不服として再調査の申請をしたが、審査請求とみなされたうえ、昭和三二年一〇月一五日高松国税局長からその理由なしとして棄却されたことは当事者間に争いない。

(二)  原告は、二八年度および二九年度における原告の所得金額は原告の諸帳簿に基いて計算すれば原告申告のように欠損であるのに、被告が前記のように原告の所得金額を決定したのは違法である旨を主張するが、

(イ)  証人尾崎務、砂川瓢(一回)の各証言によれば、原告には、出、入金伝票、現金出納簿、仕入帳、売上帳、銀行勘定帳等の諸帳簿が一應備付されていることが認められるが、(1) 原告備付の伝票記載の金額と実際に銀行に預金された金額について、別紙(1) および(2) 記載のような不突合の点があること、(2) 売上仕切書と売上伝票について、別紙(3) および(4) 記載のような不突合の記帳がなされていること、(3) 別紙(5) および(6) 記載のような出所不明金の記帳がなされていることは当事者間に争いないので、これらの事実に徴し、原告の諸帳簿の正確度については疑いがあり、

(ロ)  原告の決算書によつて計算した利益率が売上高一〇〇円当り二八年度一〇円五八銭、二九年度一二円八九銭であることは当事者間に争いないが、(1) 成立に争いない乙第六ないし九号証の各記載および証人砂川瓢(一回)の証言によれば、原告と業況の類似する同業者である高松市内、株式会社伊沢富司商店の利益率(法人税確定申告書による売上高一〇〇円当り)が昭和二八年三月一日から昭和二九年二月二八日までの事業年度において一四円九八銭、昭和二九年三月一日から昭和三〇年二月二八日までの事業年度において一五円六〇銭、今治市内、株式会社大道屋商店の利益率(法人税確定申告書による亮上高一〇〇円当り)が昭和二七年九月一日から昭和二八年八月二一日までの事業年度において一八円五九銭、昭和二八年九月一日から昭和二九年八月三一日までの事業年度において一八円一八銭であること、(2) 成立に争いない乙第一〇、一一号証の各一ないし三の各記載によれば、高松国税局作成、商工庶業等所得標準率表記載の玩具類卸の差益率(収入金一〇〇円当り)が二八年分一六パーセント、二九年分一六・三パーセントであることがそれぞれ認められるので、これらと対比して原告主張の利益率は著しく低率であり、その反面、原告代表者下出清治郎に別紙(7) および(8) 記載の預金があることは当事者間に争いないところ、その資金の出所については後記のように原告の言い分を信用できず、右利益率が低いことと相侯つて売上除外の疑いがある。

等の諸点に徴し、被告が原告の所得金額を推計によつて算出しても、その推計方法が合理的である限り、適法なものというべきである。

もつとも原告は、(1) 別紙(1) ないし(6) 記載の不突合等の点について種々弁明し、証人重見正登の証言(一、二回)および原告代表者下出清治郎尋問の結果中にはその弁明に副う趣旨の供述もあるが、これらの供述だけをもつてしてはいまだその弁明に副う事実を認めるに足りず、(2) 二八年度および二九年度の利益率が低い点については、製造人形が不出来のため滞貨を生じ、期末棚卸高算定の際製造原価以下に評価せざるを得なかつたためであると主張し、原告代表者下出清治郎尋問の結果中には右主張に副う供述もあるが、右供述を裏付ける別段の証拠もないので、右供述だけをもつてしてはいまだ右主張事実を認めるに足りず、更にまた右利益率の点については、三〇年度ないし三三年度の利益率と対比してみても相当であると主張し、原告が右各年度の法人税につきその主張のような利益率に従つた申告をして納税ずみであることは当事者間に争いがない事実であるが、さような一事だけをもつてしては、いまだ直ちに本件係争年度における利益率が原告主張のとおりであることを肯首しがたく、(3) 別紙(7) および(8) 記載の別途預金については、原告代表者下出清治郎が種々商売をして得た利益金等が結局はその資金になつていると主張し、甲第五、六号証の各記載、証人手島知治、森実、唐松義政、溝畑喜一の各証言、原告代表者下出清治郎尋問の結果中には右主張に副う記載、供述もあるが、下出清治郎が昭和二二年頃現在地の宅地を買い、その地上に店舗を建てる際、その宅地代金、建築資金の一部(六万円)を借入れたことがあるという当事者間に争いない事実および証人尾崎務の証言に徴し、右各証拠をもつてただちに下出清治郎が原告主張のような利益金を得ていたと認めるには躊躇せざるを得ないので、原告備付の諸帳簿の正確度に対する原告の反対主張は採用できない。

(三)  ところで、被告が本件各決定をなすに当つて用いた推計方法は、成立に争いない甲第二、四号証、乙第四、五、一二号証の各記載、証人尾崎務、砂川瓢(一回)の各証言によれば次のとおりであると認められる。

(イ)  売上高の推計について

先ず原告の損益計算書記載の当期商品仕入高(a)には運賃、函代が含まれているので、(a)から運賃、函代(b)(原告の仕切書、納品書に基いて算出)を差し引いて当期の商品純仕入高(c)を算出し、(c)と原告の損益計算書記載の期首繰越高(d)の合計から原告の損益計算書記載の期末棚卸高(e)を差し引いて当期の商品原価(f)を算出する。

次に原告の扱う商品は食玩、一般玩具、仕入人形、製造人形、花火の五種類に分れるが、各種類によつて利益率も異なるので、一先ず原告代表者の申立に基く各種類別の売上高(g)から各種類別の対原価利益率(h)(原告の仕入仕切書と売上伝票により算出)によつて逆算して各種類別の商品原価(i)を算出し、全体に対する各種類別商品の割合(j)を算出したうえ、(f)に(j)を乗じて各種類別の商品原価(k)を算出する。

次に(k)に(h)を乗じて各種類別の売上高(l)を算出し、その合計から、不良、破損分(m)(他の同業者について調査して算出)を差し引いて、純売上高(n)を算出する。

(ロ)  所得金額の推計について

純売上高(n)から原告の損益計算書記載の損失勘定科目金額および当事者間に争いない公租公課、繰越欠損金を差し引いて所得金額を算出する。

(ハ)  右方法に基いて推計すると、二八年度は別紙(9) 記載のとおりに純売上高二、四四六万四、八〇一円、所得金額九六万八、〇三三円、二九年度は別紙(10)記載のとおりに純売上高二、六四一万二、一九五円、所得金額六八万七、〇〇〇円となる。

(四)  そこで、右推計方法が合理的であるか否かについて検討するに、(1) 右のような資料に基く右のような推計方法は、原告のような卸売を主とした企業における売上高および所得金額推計の方法として、一應一般的な方法であると思料されるし、(2) また、右推計に基いて売上高一〇〇円当りの利益率を計算すると、二八年度一四円九四銭、二九年度一五円六四銭となつて前記同業者の利益率、高松国税局作成の標準差益率にも略見合う率となり、他に原告の営業が不況であつた等特段の事情も認められないので、右推計方法は合理的なものということができる。

したがつて、右推計方法によつて算出された所得金額の範囲内においてなされた本件各決定は、いずれも適法というべきである。

なお、原告は本件各決定の通知書記載の附記理由は法の定める要件を満たしていないので違法である旨を主張するが、本件記録に照らせば、本件訴訟は昭和三三年一〇月八日から昭和三六年九月一八日までの間二四回にわたる準備手続期日を経ているのに、右主張は昭和三八年九月三〇日の口頭弁論期日においてはじめて提出されたものであつて、右準備手続調書又はこれに代るべき準備書面に記載されていない事項であることが明らかである。もつとも、原告は昭和三八年五月三〇日に理由附記に関する最高裁判所の判決がなされた点をとらえて、右主張を準備手続期日に提出しなかつたことについて原告に重大な過失はなかつたというが、理由附記に関しては右準備手続当時においてすでに多数の裁判例(下級審)が出て論議されていたのであるから、原告指摘の最高裁判所判決が準備手続期日後に出たという一事をもつてしては、いまだ準備手続期日において右主張を提出しなかつたことにつき原告に重大な過失がなかつたとの疎明ありとはいいがたい。したがつて、民事訴訟法第二五五条により原告はもはや右主張を提出することができないものといわなければならないから、右主張はこれを却下する。

(五)  よつて、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本益繁 永松昭次郎 阿蘇成人)

別紙(1) -(10)<省略>

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